交詢社 地球環境研究会 2019年7月4日(木) 佐竹誠記
概要 清水敦史 チャレナジー株式会社 代表取締役 CE0 「台風を資源化する! ベンチャーが挑むエネルギー革命 ~世界初の垂直軸型マグナス式風力発電機~」
1.起業のきっかけ 大阪のキーエンスで工場自動化(FA)の研究開発(センサー)をする技術者だった。 2011年東日本大震災で、大阪は震度4だったが、福島原発事故をテレビで見て、脱 原発のために再生可能エネルギーを普及させたいと思うようになった。 もともとは原発容認派(しかたがない、CO2削減対策として)、何重もの安全対策で事 故はないと思っていたが、福島原発事故で原発は人類が使いこなせる技術ではない(使用 済み核燃料、核廃棄物の処分)と。世界中で再生可能エネルギー利用が加速すると思った。 当時32歳、独身だが、次の世代に何を残せるのかを考えるようになる。原発事故の後 始末は百年かかる、次の世代への負の遺産になる。廃炉作業も遅れている。 原発のない世界をどうつくるのか、その礎だけでもつくるのが自分たちの役割と考えた。
2.なぜ風力発電なのか 「再生可能エネルギー入門」のような本を読んで勉強したところ、世界の主流は風力発 電で2040年には再生可能エネルギーの3割を占めという予測もあり、太陽光発電より も多い。 世界の中で、風力発電第1位は今や中国、次いでアメリカ、昔から風車利用が盛んなヨ ーロッパが続く。日本(昔から水車利用)は圏外。 日本の再生可能エネルギーのポテンシャル(環境省)、風力発電はすごく可能性があるが [1900GW(1GWは原発1基分100万KW 洋上1600GW+陸上300GW)
日本の風況マップ、海岸線が長いので洋上のポテンシャルが多い]、現実にはわずか3GW (世界では600GW)とギャップが大きい。なんでギャップが生まれるか? 世界の風力発電機メーカーのシェアは、従来は欧米が上位だったが今や中国メーカーが 世界1位。日本はランク外、しかも国内メーカーの撤退が相次いでいる。日本国内市場で も海外勢が優勢で、国産は3割。これはちょうど50年前の自動車産業に似ていると思う。 海外製の風車の場合ベアリング取替えで数千万円かかるため修理できず、そのまま放置さ れることも多い。昨年の淡路島の風車の事故も、数年前に故障したため主電源が切らてお り安全機能が働かなかったことが原因だった。 3.プロペラ風車の弱点 世界最古1890年の風力発電機と最新2018年の風力発電機は基本的な形があまり 変わっていない。数十~数百KWから10MWへと「大型化」という進化をしており、メ ーカーの淘汰も大型化できたかどうか。 一般のプロペラ式風車は「水平軸型×プロペラ式」、水平軸では風向変化に対応しづらく、 またプロペラ式では強風による暴走リスクがある。水平軸型プロペラ式の風車は、風向・ 風速がともに安定しているときに高い効率で発電ができるが、風速・風向の急激な変化に
は対応しづらい構造。プロペラ風車の根本的問題、弱点は暴走のリスクで、暴走しないよ うにプロペラの角度を変える仕組みがあるが、その仕組みが故障して暴走する場合もある。
4.マグナス風車 沖縄県南城市に設置した垂直軸型マグナス風車試作機(1KW) プロペラのかわりに円筒がついており、風の中で円筒を回した時に発生するマグナス効 果を利用する。 マグナス効果とは、回転する円柱または球が一様流中(風や水の流れの中)に置かれた ときに、その流れの方向に対して垂直の方向に力が働くこと、こうして生み出される力(揚 力)が「マグナス力」。この自然現象は1852年にドイツの科学者マグヌス氏によって認 識されたもので、野球のカーブボールやゴルフのスライスといった現象も同じ原理による。
円筒の自転数によりパワー制御が可能、プロペラよりも丈夫、プロペラよりも低コスト。 マグナス風車を採用した帆船、マグナス船が1924年に実用化されたこともある。最 近になってエコシップ(棒をまわす方がスクリューを回すよりも省エネ、低燃費)として 復活してきた。 マグナス飛行機も1930年に制作されたが、この飛行機は風車が円筒が止まると揚力 がゼロになるため、滑空ができず墜落してしまうことから実用にはならなかった。 風力発電機にとっては、円筒が止まると揚力がゼロになることはメリットになる。ディ スク(機械)ブレーキをかけなくても円筒の回転を止めれば風車を止めることができる。
5.垂直軸にする 垂直軸のメリットは風向変化の影響を受けないことと、低重心化が可能、メンテナンス しやすいこと。欧州は風向が比較的一定だが、日本は風向が変わりやすく、山があるため 乱流になりやすい。 「垂直軸×マグナス式」の方式は、垂直軸のため全方向の風に対応でき、またマグナス 式にすることで円筒翼の回転制御により風速に応じて風車の回転数を一定に保つことがで きる。風車の回転数を制御することで、突然の強風でも暴走せずに安定的な発電を可能と する。 日本の風環境は風向・風速の変化が激しく、また台風の様な強風に毎年晒される風車に とっては非常に過酷な環境であり、その中で、垂直軸型マグナス風車は安定的に発電がで き、風車の稼働率を飛躍的に向上させることが期待できる。また、プロペラの代わりに円 筒形状の翼を用いることで製造コストを大幅に低減することが期待できる。再生可能エネ ルギーによる安価な電力を供給することを目指している。 水平軸型の場合はプロペラ式もマグナス式もあるが、垂直軸型の場合はプロペラ式はあ るがマグナス式は実用化されていなかった(風上側と風下側で相殺される問題あり)。 調べてみると、垂直軸型マグナス式の特許は2件だけ(関西電力2007年、三菱重工 2008年)あったが、どちらも出願しているが特許化には至っていなかった。 そこで、回転翼を2本1組とし、互いに逆回転(時計回りに回転と反時計回りに回転) させる設計を考え、2011年に特許を出願、2012年に試作1号機を製作(自宅マン ションで扇風機で実験)、2013年に特許を取得。
2014年3月に第 1 回テックプラングランプリ最優秀賞を受賞。そこで浜野製作所浜 野社長から「うちの倉庫で工場を」と声をかけてもらい2014年10月に(株)チャレ ナジーを設立。
6.コンピュータシミュレーション 2014年12月にコンピュータシミュレーションをしたところ、効率0.1%(プロ ペラ風車の場合は30~40%)。 原因は、円筒の後ろにおおきなカルマン渦ができてしまうから。 そこでやめずに、「半年だけがんばろう」と2015年1~5月に試行錯誤、ゴルフボー ルのディンプルのように円筒の表面を工夫することで効率を向上させた。 2015年6月にブレークスルーがあり、効率30%超を達成できる可能性が開けた。 。
実験中にたまたま円筒に手を近づけると効率が上がることを発見し、そこから円筒の後ろ に整流版を付けるアイデアに至り特許出願した(12か国に国際特許出願中)。これは、ま さに「発見」だった。 整流版の大きさ、かたちをコンピュータシミュレーションで最適化し、2015年12 月には風洞実験で効率30%程度の性能を確認した。
7.フィールドテスト 垂直軸型マグナス風力発電機の試作機を開発し、屋内での実験を繰り返してきたが、製 品化するためには、屋外でフィールドテストを行い、本物の台風で実験する必要がある。 台風のような強風下でも壊れず、発電し続けることができれば、「夢の台風発電の実現」 に一歩近づくことができるので、2016年の夏、沖縄県南城市にフィールドテスト機を 建設し、世界初の「台風発電実証実験」 (台風時に風力発電機を暴走することなく安全に稼 働させたのち、安全に停止させる実験)にチャレンジした。 この実証実験では、およそ直径3m×高さ3mの大きさで、発電量1KWのフィールド テスト機を設置し、台風を迎え撃ち、発電量などの様々なデータをとり、さらに大型の量 産機を開発することを目指した。 テストフィールドは実験についての新聞記事を読んだ方から「土地を使っていいよ」と 提供を受けた。設置するテスト機の設計・製造・組立、現地の基礎工事などの準備費用を 含め、多額の費用が必要なため、クラウドファンディングで資金を募り、目標金額200 万円に対して、2016年1月に402.5万円(支援者395人)をいただくことがで きた。 2016年8月、沖縄県南城市の1KW機を設置し、実験を開始した。 マグナス風車の円筒の材料は、昔は金属しかなかったが、今はFRPを使える、軽くて (鉄の8分の1)強い。円筒はプロペラに比べてコストが安いのもメリット。 2016年は沖縄に台風が来なかったが、2017年10月に台風発電(2017年1 0月28日の台風22号、瞬間風速33m/秒での発電)に成功。 2018年8月、沖縄県石垣市で、10KW試験機で実証実験を開始し、2018年1 0月の台風25号での発電に成功。
定格風速11m/秒より風速が上がっても一定発電できるのは、「マグナス力」は「風速」 と「円筒回転数」に比例するので、円筒回転数をモーターで制御し、風速が強くなると円 筒回転数を低下させることにより、「マグナス力」を一定にできるから。 風のエネルギーは風速の3乗であり、風速5m/秒と風速50m/秒ではエネルギーが 千倍ちがう。 逆に風速1m/秒でも発電したとしても発電力は小さく、円筒の消費電力の方が大きく なってしまう。 垂直軸型マグナス風車は円筒翼を電動モーターで駆動させるので、電力の自己消費が発 生し、発電電力からモーター消費電力を差し引いたものが正味発電量となるので、既存の 風力発電機と比べると発電効率は劣る。一方で、マグナス風車は風速4m/秒から発電を 開始し、最大風速40m/秒まで発電を継続することができるため、既存の風力発電が風 速25m/秒程度までしか発電できないのと比べると、発電可能な風速域が大幅に広がる。。 既存風車に発電効率で劣る分を発電時間でカバーすることで総発電量で上回ることを目指 している。
8.実用化、大型化 「マグナス力」は円筒翼の表面速度が大事で、大型化すれば円筒の回転数は少なくなり、 消費電力の割合が小さくなっていく。 大型化が生きる道、まずは10KWを量産化し、100KW、1MWの展開を考えてい る。 100KW以上は洋上も視野に入る。現在の洋上浮体式はプロペラ風車だけだが、風車 0 が傾かないようにしなければならず、浮体だけで数億円のコストがかかってしまう。マ グナス風車の場合、傾いても起き上り小法師のように戻り転覆しないため、浮体は棒1本、 いわば「釣りの浮き」のような構造にできる。
マグナス風車を水中に沈めると水力発電も可能。水の密度は空気の千倍もありマグナス 力が大きくなるので小型化できる。 火星の大気は密度が低いが風速は強いので、火星でも使えるかもしれない。
ハワイでの評価は、「地面に近いところでもできる」こと。 大型プロペラ風車は景観(タワーが高い)、騒音( 風速の5倍で回転するプロペラの風切 り音)、バードストライク(飛翔中の鳥がプロペラにぶつかる)などの問題があるが、マグ ナス風車は、風車の高さもプロペラ風車ほど高くないこと、ゆっくり回転するので騒音が 出にくいこと、鳥から視認しやすくバードストライクのリスクを下げること、などから設 置可能な場所が多いと考えている。 設置スペースについて、プロペラ風車は乱流の影響を受けないように風車間の距離を離 す必要があるが、マグナス風車は乱流に強いので密着させて設置できる。
9.離島電力問題の解決 離島は電源の調達や高い発電コストなど電気の問題で困っている。ハワイでは2045
年に再生可能エネルギーで100%の発電をまかなう計画。
2019年、フィリピンに輸出。 フィリピンの風況ポテンシャルは約80GW。2019年1月1日に台風1号が上陸する など、1年中が台風シーズン。離島ではディーゼル発電機を設置しているところが多く、 発電コストが50円/Kwh 程度と高いため、昼は不稼働、夕方から夜にのみ発電している 場所もある。 フィリピンでは電力が自由化されており、民間事業者が手を付けない採算がとれないと ころは国営のNPCが電力供給している。風力発電については、可倒式の風力発電機を設 置し、風車を倒していたにもかかわらず台風で羽根が倒れてしまった。太陽光発電につい ても、島では十分な土地を確保しにくく、また島そのものが雲を作るため日照率が低く、 さらに気温が高いと発電効率が下がるため発電量が小さくなってしまう等の問題がある。 そこで、垂直軸型マグナス風車と蓄電池でディーゼル発電機を代替することを構想してい る。
10.2020年世界輸出と水素立国 世界地図で台風の経路を見ると、プロペラ風力発電は台風が来ない欧州や米国、中国に 多い。世界中の島嶼国からの問い合わせが多い。電力で困っている、ハリケーンで困って いる島が、マグナス風車の防災対応力と電力供給に期待している。 将来的には島で水素をつくりたい。風力発電で海水を電気分解し水素をつくる。島のエ ネルギーを100%水素でまかない、余った水素を輸出する。 日本の原油埋蔵量は世界第79位だが、海洋面積は世界第6位。 水素は合成できるものではなく、つくるしかない元素。 最終的には、世界中の島で風力発電による海水の電気分解による水素をつくり、世界を 水素社会にする構想。 台風で水素! 台風水素社会を実現し、日本を水素輸出国に!