水害列島 出版記念勉強会 2019年7月25日(木)・31日(水) 概要 土屋信行 (公財)リバーフロント研究所 技術参与 「水害列島」
[参考文献] 土屋信行 「水害列島」 文春新書 2019年 土屋信行 「首都水没」 文春新書 2014年
[平成になってから主な水害だけでも数多く日本全土で起きており、まさに「水害列島」 今まさに「大水害」の時代を迎えている] 〇 洪水は自然現象! 水害は社会現象! 2019年7月、梅雨前線の停滞により九州南部を中心に記録的な大雨。 ・気象観測が整っている(情報がある)なかで、2018年6月28日から7月8日の台風 7号と梅雨前線による西日本豪雨で200人以上が亡くなっている。 ・1959年の伊勢湾台風の時は気象観測装置も十分ではなく情報も少ないなかで、避難 遅れで2000人以上が亡くなっている。 ・日本は温帯というよりは明らかに亜熱帯化してきている。 ・西日本豪雨の教訓から、ヘリコプター管制システムができて防災機関が協調できた。 大雨の原因は、九州付近に停滞している梅雨前線に南からの暖かい湿った空気が流れ込み、 さらに朝鮮半島上空の寒気を伴う気圧の谷が南東に移動し、梅雨前線付近の大気が不安定 になり、積乱雲を次々と発生する「線状降水帯」を生み出し、局地的な豪雨につながった。
「洪水は自然現象! 水害は社会現象!」 ・2017年7月の九州北部豪雨による水害(37名が亡くなる)は、2012年の九州北 部豪雨と同じ。 ・山体崩壊で木が土砂と一緒に流されて被害が拡大している。 水害? それとも災害?
・「森は健康か?」 空から見ると緑うっそうとしている森だが、中に入ると光一筋入らない林で、低木も草 一枚も生えていない。 雨が降るたびに表土を流し、雨水が木の根元の土30㎝程度抉り取ると木が倒れ、森が 崩壊していく。 間伐補助金は、木を切るだけの「打ち捨て間伐」にしか使えず、「木を育てる植林」には 使えない。 ・「山が崩壊している!」 森の砂防ダム効果も、杉林が竹の浸食を受けて竹林へと遷移してしまっている。 森の健全性は林業で支えられるもの。
・「知って備えることが大切」 2016年10月、介護老人保健施設ふれんどり岩泉の被害は、 「共生の範囲を超え水の領域を犯して」施設が河川敷に建設されていた。 川が流れるところに建物をつくらないのは、先人の諫め。 ・川の中には薪炭林があり、地域の人が所有権をもち、燃料として使っていた。 入会地の手入れ、先人の戒めを忘れて被害を招いた。
・先達が残した「海嘯記念碑」もここまで津波が来た証拠、 昔からの地名もその土地の特性を表しているので、 むやみに今流の名前に変えずに大事にすることがよい。
〇 避難準備情報? >>> 「水防災意識社会再構築ビジョン」 「避難指示」は「避難命令」にすべきである。 ・2014年8月豪雨、広島の土砂災害(死者77名) 言いたくはないが「そこは人が住んでいい場所ですか!?」 自然の恵みを受取る作法を忘れた結果ではないですか!? ・2015年9月常総市の洪水災害 防災無線は「逃げてください!」としか言わない。 防災無線で「〇〇さん、○○川の水位が高くなってきましたので、逃げてください!」 と住民 1 人ひとりに声をかけていたら、 全員に声をかけるうちに堤防が決壊して被害が発生してしまう。間に合わない。
〇 国民の命は誰が守るのか? 国? 都道府県? 市区町村? >>> 昭和34年伊勢湾台風のあと「災害対策基本法」で「市区町村」に権限。 当時は気象庁も台風の場所がリアルタイムでわからなかったので、 暴風雨の状況がわかる現場に権限を付与することにしたもの。 しかし、市町村長は専門性がない指揮官であり、 また指揮官をサポートする専門家がいない現状。 (土木技術者がいない市町村が3割もある) 専門性のない指揮官の意思決定を誰がサポートするのか? 組織はできているか?
・実際にあった常総市の例では、 高杉徹市長は被害後の記者会見で、現場付近に避難指示を出さなかった理由を 「鬼怒川全域の水位が上がっていますからどこが決壊するかまではわからない」、 「避難指示を出せなかった」と発言。 だが、「越流破堤」後に避難指示を出すのでは・・・避難が間に合わない!!
〇 「公助」=誰が? : 「自助」=正常バイアスの問題
「公助? 最後の砦として頼ってよいのか?」 ・自治体によっては、避難情報発令時期を危険度が上昇してから出すことに「改悪」し ているところもある。 これは「人の命と引き換えに、避難率の向上を目指した行為」。 「避難してくれないから、もっと切迫してから避難警報を出したほうが避難してくれ る人が増えるのではないか」との考え。 ・荒川下流の避難準備情報、タイムラインの設定はよいが、「雨が降る前に」が重要。 ・洪水は川の流域で起こるので、 流域自治体は「技術職員の共有」「情報の共有」「予算の共有」が大切で、 これらの情報の要となる「流域治水組合」が必要。
・アメリカではまさにこのような体制になっていて、 「国家が国民の命を守る!」としている。 アメリカFEMAは「避難命令」を発する。 (Federal Emergency Management Agency of United States of America アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁) 権限と責任を持ち「避難命令」を出すことで、 例えば高速道路の全車線を避難方向に向け一方通行にし、効率的な避難行動を実施。 ・「海抜ゼロメーター世界都市サミット」 (2008年12月15日~17日、江戸川区で開催) ・世界中で人は正常性バイアスを持っている。 ・アメリカ工兵隊隊長「ハリケーンカトリーナの際には早期に避難命令出したが・・・」。 (米国内の災害復興工事・土木工事、軍事施設建設、放射能汚染・除染監理が主要任務) ・Gone with the Water.「洪水ですべて失った」 (首まで水につかった男性が掲げた紙に書かれた言葉) 雑誌の見開き写真。
・正常バイアスとは、 ・そんなことは起こらない。 ・もし、起こるとしても、私には起こらない。 ・もし、起こるとしても、それほど深刻な事態にはならない。 ・もし、私に深刻な事態が起きたとしても、私にはそれを防ぐすべがない。
〇 ハードとソフト? 避難を間違えると助からない! 釜石の奇跡:釜石の悲劇 >>> 「正しい」訓練が大事。
・「釜石の奇跡」は、 子供たちが「日ごろの避難訓練で、避難場所に指定された所まで避難を行い、 常に命山(いのちやま:命を守る高い場所)を目指して避難しろと教えられていた」の で、近づく津波から逃げるために、最初は避難指定場所へ逃げたが、さらに津波が近 づいて来るのを感じて、自主的に高台を目指して避難を続けて、助かった。
・「釜石の悲劇」は、 避難訓練を常に親水区域内の「防災センター」に集まることで実施していて、 実際の避難場所になっている高台の「常願寺」へは行かずに解散していた。 3.11地震発生後「防災センター」を目指して地域住民は避難したが、 そこから避難場所の「常願寺」に行くことはなく、そこで全員が津波に襲われて、 命を失った。 「常願寺」という命山を生かせなかったのはソフト(訓練)のミス。 〇 「ソフトを支えるハード」 「ハードを生かすソフト」 ・ハードを整備した上で、最適な避難行動はどうあるべきかを考える。 ハードとソフトのバランスのとれた整備が不可欠。
・江戸川区ハザードマップ 2019年5月 水害時のシミュレーションを詳細に解説 江東区大島・東砂・墨田区立花・江戸川区平井は約7m浸水し、江東区亀戸で最大 約10mが浸水する、 水が引かないため水道・電気・ガスが使えない生活が2週間以上も続く、 ことが予想されるという衝撃的な内容。 「洪水は自然現象、水害は社会現象」。 〇 首都直下地震 ・日本で起こる地震(マグニチュード6以上)は世界の23%。 ・ プレートテクトニクス理論。 ・首都直下地震後の20年間の損失累計が855兆円との試算。 (経済被害731兆円、資産被害47兆円、財政的被害77兆円)
〇 昭和22年カスリーン台風 <<< 土屋氏の原点 大正6年10月1日の高潮=大海嘯(だいかいしょう) >>> 命山をつくる=高台化(高潮+1m) >>> 葛西臨海公園380haで実現。 >>> 宮城県女川町で東日本大震災の復興工事として防潮台地をつくる。
〇 東京は世界で一番危険な都市で、損害保険料も世界一高いところ ・東京・横浜は世界で最も災害リスクが高い都市(710リスクポイント) (ミュンヘン再保険会社)(「首都水没」参照) ・東京ゼロメートル地帯「命山」計画、ここにいれば大丈夫! (地域内の住民がとりあえず逃げられる命山) >>> 避難高台地 >>> 広域防災グリーンベルト ・防災機関のBCP >>> 病院の防災化が重要。
〇 事前復興 「稲村の火」(津波から村人を救った物語)のモデル >>> ヤマサ醤油七代目当主濱口儀兵衛(浜口梧陵 はまぐちごりょう)。 ・濱口儀兵衛が残した言葉 「万が一の時になってから思いをめぐらせるのではなく、 常日頃から非常の事態に備え、一生懸命わが身を生かす心構えを養うべきである。 住民百世の安堵をはかれ。」 ・被害はゼロにできる。 「水害列島」は、「首都水没」の後編。 前編の「首都水没」と合わせて読んでいただけると、より理解が深まると思う。
以上 (聴講・記録)佐竹誠+伊藤友悌