交詢社 地球環境研究会 2019年4月4日(木) 概要 小野有五 行動する市民科学者の会・北海道 「胆振東部地震が教えてくれたこと 泊原発敷地内の「活断層」問題 全国の原発の避けがたい問題点」
[参考文献] 小野有五 「ヒマラヤで考えたこと」 岩波ジュニア新書 1999年 小野有五 「たたかう地理学」 古今書院 2013年
1.ヒマラヤで考えたこと 1982年ネパール、ヒマラヤのランタン谷で40日間の氷河調査隊に参加した。 氷河調査の成果は、世界初の大発見だった。 ① 標高5400mのヒマラヤの氷河でボーリングにより氷河のでき方を発見 (雪が一度融けて水になり、それが下にある冷たい氷河の氷に触れ氷となる上積氷) ② 植物(藍藻)や昆虫(ユスリカ)を発見 氷河調査の際、氷河上では暖をとるため、氷河の上にたまった雪を掘りこんでつくっ たキャンプの中で、キャンプファイヤーのようにタキギを燃やすが、タキギはすぐに燃 え尽きてしまい、次々に足さないと暖かくならない。 氷河調査隊の存在が、ランタン村のなにかを大きく変えた、確実になにかを壊してい たことに気がついた。すなわち、氷河隊がタキギを買い続けることによって、ランタン 村の森、ランタン村の人たちが自分たちだけで生活していたなら決して伐らずにすんだ 木々を減らしてしまったのだ。 フィールドワークそのものによって、自分たちがヒマラヤの環境を壊してしまったこ とを知って、自然や人間を純粋に研究の対象にしてきたことへの懐疑が生まれた。 自然や人々を研究の対象にするより、人々の側にたって自然を考えることが必要なの ではないか、という発想が生まれた。
2.シマフクロウとの出会い 1990年北海道、根室の森でゴルフ場開発による影響調査の際、ハルニレの大木の 上に身じろぎもせず止まっているシマグクロウの金色に輝く大きな眼で見つめられ 「あなたは、・・・ずっと自然を研究して、この森が伐られたら僕たちが生きていけなく なることはよくわかるでしょう。・・・あなたに力がないのなら、それは仕方がない。で もあなたには、僕たちを守る力がじゅうぶんあるはずだ。力があるのに、なぜそれをつ かってくれないのです? あなたがこれまでやってきた自然についての学問は、いった いなんのためだったのです?」 そのとき、私の人生そのものが変わったのである。
3.たたかう地理学 何のための研究なのか? 医学には基礎医学と臨床医学があるが、地球の臨床医学が環境科学である。 地理学は自然と人間の関係、その相互作用を研究する学問といわれるが、いま必要な のは、たんに研究する学問ではなく、人間と自然の関係をよりよくするための研究では ないか、それが、環境の科学としての地理学ではないか、と考えるようになった。
行動する地理学のキーワードとして7つがあり、実践してきた。 ① 歩く(現場に立つ、歩いてみる)、 ② むすぶ(出会い)、 ③ 教える(大学と社会をつなぐ、地理学と環境問題をつなぐ)、 ④ 演じる(自分のすべてを投入して、そのとき、その場面で、果たすべき役割を演じ る)、 ⑤ 変える(自然と人間の双方に等しく関われる地理学こそが「環境問題」の分析、解 決に最も貢献できる)、 ⑥ 訴える(環境正義にもとづく地理学的研究を行えば、裁判の原告になることも当然 の帰結)、 ⑦ イマジン(どうしたいか?どういう社会にしたいか(子供たちの未来)を考える)
4.胆振東部地震が教えてくれたこと 2018年9月6日 北海道胆振地方中東部を震源として発生した地震の規模はM 6.7、震源の深さは37km、最大震度7は北海道では初めて観測された。 北海道は北米プレートとユーラシアプレートの2つのプレートがぶつかり合い、東西 に強く圧縮されているが、とくに東側から押す力が強く、東側から西側にのし上がる典 型的な逆断層構造。 震源のすぐ西側には「石狩低地帯東縁断層帯」という大きな活断層、東にゆるく傾く 逆断層(深さ15km)があるが、震源のような深い場所で断層が動くとは思っていな かった。
5.泊原発敷地内の「活断層」問題 泊原発から15km西の「積丹半島西方断層」は日本海の海底にあると推定されてい る活断層で、断層面が泊原発の真下に向かって入っているため、泊原発の直下でこの断 層が動くことを心配してきた。 胆振東部地震ではこれまで予測されてきた活断層のもっと下で、想定されていなかっ た断層が動くかもしれない危険があることを教えてくれた。
6.全国の原発の避けがたい問題 「事故、さえ起こさなければ、原発だっていいでしょ。」 そうではありません、原発はたとえ事故を起こさなくても、そのあとで危険な核のゴ ミを生み出し、その処理には、なんと10万年もかかる。 人間は危険なゴミを10万年も管理できるのか? フィンランドのオルキルオトに建設中の高レベル放射性廃棄物処分場は、10億年前の 岩盤の地下500mだが、日本には適地があるだろうか?
7.人間の時間・神の時間 人間の時間はクロノス、神(自然)の時間はカイロス、カイロスは人間の力では予知で きない、災害の発生は防げない、したがって減災が重要となる。